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悪いのは船場吉兆と保健所

2008723

宇佐美 保

 東京新聞(200878日夕刊)に掲載された国語作文教育研究所所長の肩書きを有する宮川俊彦氏の次のコラム(「胃袋の秩序」)を読み驚かされました。

 

・・・日本人は、衣食足りて礼節も衰退し始めたように思えてくる。危機感や緊張感が薄まれば、自立性は損なわれる。人は食を求めてきた。食のための職でもあった。たらふく食べたいとか旨いものを食べたいと願ったのはつい半世紀前だ。食べ物はあっても金がなかった。「もったいない」は日常に定着し、貧しいことは恥ではなかった。

 今や幼い頃から高価な食材を口にし、それを促す祖父母がいて、無理して食べなくてもいいと言い、捨てることにも躊躇を感じなくなっている。船場吉兆の使い回しを非難しつつもどこかで心が疼く

・・・

 

 「どこかで心が疼く」と書く前に、宮川氏は別な面を書くべきだったと存じます。

 

 船場吉兆の食べ残しを別の客に出した事件に関して、産経新聞(200852日)には次のように書かれています。

 

 牛肉の産地を偽装表示していた高級料亭「船場吉兆」(大阪市中央区)が、本店の料亭部門で客が残した天ぷらやアユの塩焼きなどの料理をいったん回収し、別の客に提供していたことが2日、分かった。料亭経営を取り仕切っていた当時の湯木正徳前社長(74)の指示で昨年11月の営業休止前まで常態化していたという。大阪市保健所も同日、「モラル上あってはならないこと」として食品衛生法に基づき、本店の立ち入り調査を行った。事実関係を確認したうえで行政指導する方針という。

・・・

 関係者の証言によると、使い回しは、本店の調理場で、仲居が客席から下げてきた器を回収。客がはしを付けた料理は調理人が廃棄するが、はしを付けずに残った料理の一部はいったんトレーなどに移し替え、器に盛り付け直して別の客に提供していたという。

 

 使い回されていたのは、アユの塩焼き、ゴボウをうなぎで包んだ「八幡巻き」、エビに魚のすり身を塗って蒸した「えびきす」など。天ぷらは揚げ直して出すこともあった。さらに手付かずの刺し身のつまも出し直していた。

 

 接待の宴席などでは、比較的食事に手をつけない接待側の客に使い回しの料理を出していたといい、元従業員は「先輩の調理人から『使えるものはすべて使う』と指示され、残った料理をえり分けていた。1人数万円の料金を取っていた高級料亭として恥ずかしい」と話している。

・・・

 食品衛生法は、腐敗などで健康を損なう恐れがある食品を販売することを禁じているが、使い回しに関する規定はないという。市保健所は「健康被害がなければ法的な責任は問えないが、食に携わる事業者としてあってはならない」と話しており、同社の関係者から詳しく事情を聴いている。

 

 

 

食品衛生法は、・・・、使い回しに関する規定はない」に関して、
何故“食品衛生法自体が間違っている!”との声が上がらなかったのでしょうか!?

 

食品衛生法は、「腐敗などで健康を損なう恐れがある食品を販売することを禁じている」とのことですから、「客の食べ残し健康を損なう恐れがある食品」と解釈し、「客の食べ残し」を別の客に出す事を禁止すべきであり、船場吉兆の「法的な責任」を問うべきです。

 

 見た目が如何に綺麗であっても、客の唾は沢山降りかかっているでしょうし、箸をつけても食べなかったかもしれませんし、食べようとして下に落としたのを拾って、皿に戻しているかもしれません。

刺し身のつま等を食べる人は少ないでしょうから、何度も何度も使いまわされた上、口にされるでしょう。

人間色々な方が居られます。

料理を手で撫でているかもしれません。

或いは舐めているかもしれません。

 

 こう考えてゆくと心配は限りなく膨らんで行きます。

従って、「客の食べ残し」が「健康を損なう恐れがないとは言い切れない筈です。

 

 なのに、保健所が法律的に「客の食べ残し」の再使用を容認するのは、保健所の怠慢行為です。

 

 そして、そんな保健所を容認するのもマスコミの怠慢行為です。

 

 ところが保健所は、とんでもない指導をしているのです。

 

数ヶ月前、結婚式に招かれ披露宴のご馳走にも与りました。

そして、披露宴の最後に、(かつては、小さな箱に入れて配られていた)ウェディング・ケーキの一切れがお皿に載って出てきました。

もう既に、豪勢なお料理もコーヒーと共に別のお菓子をご馳走になったあとでしたから、どなたもそのケーキに手をつけていませんでした。

私も、食べれば食べられましたが、家に帰って、コーヒーを入れて、改めて御二人の幸せを祝いつつのんびりと味わいたかったので、係りの方に、“ケーキを持って帰りたいので、箱にでも入れて頂けませんか?”と依頼しました。

 ところが、係りの方は

“お持ち帰りの途中で食品が傷む心配があるとのことで、保健所から、お持ち帰りを禁止されているのです”

との驚くべき答えが返ってきました。

 

 でも、食べ残すのは余りにも勿体無いので、強引に、おなかを壊すのは自己責任ということで、ビニール袋を貰って、ケーキを入れ家でゆっくりと味わいました。

他の方々は、全員テーブルにケーキを残して帰りました。

 

 又、最近、中華料理をご馳走になった際、一杯の紹興酒が出てきました。

とても美味しかったのですが、全部飲むと帰りの足がぐらつくのが心配で、お店の方に、“持ち帰られるようにして頂けませんか?”とお願いしましたら、これまた、“お持ち帰りは保健所から禁止されていますので”と言われてしまいました。

(そこで、次からご馳走になる時は、空のペットボトルと、ビニール袋を隠し持ってゆこうと思いました)

 

 でも、保健所は、変ですよね!

自分の食べ残しを食べる事を禁止し、別の客の食べ残しを食べる事を許可しているなんて!

このような保健所の指導があるからこそ、吉兆の食べ残しの使い回しが自由に行われたのでしょう。

 

宮川氏「船場吉兆の使い回しを非難しつつもどこかで心が疼く」と書くのではなく、

「保健所の誤った指導の結果、食べ残しが増えてしまった」

事実を突くべきと存じます。

 

 そして、客は食べ残した場合には、折に入れて貰って、自宅に持ち帰るべきと存じます。

 
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